大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋地方裁判所 昭和52年(行ウ)25号 判決 1979年4月16日

原告 石田和朗

被告 常滑市長

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一申立

昭和五二年(行ウ)第二五号事件につき、

(原告)

一  (主位的請求)

原告が被告に対してした常滑モーターボート競走場内における予想新聞販売の許可申請に対し、被告が昭和五一年一一月一八日付でした不許可処分は無効であることを確認する。

二  (予備的請求)

原告が被告に対してした常滑モーターボート競走場内における予想新聞販売の許可申請に対し、被告が昭和五一年一一月一八日付でした不許可処分を取消す。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決。

(被告)

本案前の申立

本件訴えを却下する。

との判決。

本案につき、

主文同旨の判決。

昭和五三年(行ウ)第九号事件につき、

(原告)

一  原告が被告に対し昭和五三年三月二五日付でした常滑モーターボート競走場内における予想新聞販売のための予想台等普通財産借受申請に対し、被告が同月二九日付でした不許可処分は無効であることを確認する。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決。

(被告)

本案前の申立

一  本件訴えを却下する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

との判決。

本案につき、

主文同旨の判決。

第二主張

昭和五二年(行ウ)第二五号事件につき、

(原告)

請求原因

一  原告は被告に対し、昭和五一年四月一五日から再三にわたり、常滑市の行政財産であつて、被告が管理する常滑モーターボート競走場(以下「本件競艇場」という。)内における予想新聞販売の許可申請をした。

二  被告は昭和五一年一一月一八日付で原告に対し、「予想新聞は現在以上増やす必要を認めない。」、「場内の秩序を保てない。」等の理由で、右申請を許可しない旨の通知をした。

三  しかしながら、被告が不許可の理由とする右の如き事由は全く存しないのであつて、前記不許可処分は被告がその職権を濫用し、原告の適格性について何ら調査せず、原告に対する個人的反感に基づき恣意的になしたものである。

従つて、右不許可処分には重大かつ明白な瑕疵が存するものというべきであり、違法である。

よつて、原告は、主位的に右不許可処分が無効であることの確認を、予備的にその取消しを求める。

(被告)

本案前の主張

本件競艇場の施設は常滑市所有の普通財産である。従つて、右財産の管理は私法上の行為に属し、原告に対してこれを貸与するか否かは契約自由の原則が支配するところであり、被告が原告の申請(申込)に対し、承諾を与えなかつたとしても、被告の右行為は行政処分ではなく、抗告訴訟の対象とはなり得ないものである。よつて、本件訴えは不適法である。

請求原因に対する認否

請求原因一のうち、本件競艇場が行政財産であるとの点は否認する。その余の事実は認める。

同二の事実は認める。

同三は争う。

被告の主張

被告は、原告が「常滑モーターボート競走場内予想台・新聞台等使用規則」(昭和五〇年四月一日施行)所定の常滑競艇予想協会の推せんを受けていないこと及び左記に詳述する本件競艇場施設の実態、観客の意向、原告の資力・新聞発行能力等を総合的に判断して原告の申請を不許可としたものである。従つて、仮に、本件競艇場の施設が行政財産であつて、右不許可が行政処分に該るとしても、右処分は適法である。

(一)  現在本件競艇場内において、大名古屋新聞社と常滑情報社の二社が予想新聞を販売しているが、観客は右二紙で満足し、被告に対し予想新聞を増やしてほしい旨の要求はない。

また、右二社は現在本件競艇場の東西二ケ所の入場門付近の建物内にある新聞台を使用しているが、右新聞台の規模は右二社が使用するのが限度であるし、新聞台を増設するために建物を増改築したりすることは多大の経費を要し、競艇場施設の構造上からも他に弊害を生じて好ましくない。

(二)  予想新聞は観客に対し、選手に関する正確な種々の資料及びその資料に基づく合理的な予想を提供するものでなければならず、右資料の収集は迅速になされなければならない。従つて、予想新聞の発行を業としてなすには、相当の訓練と情報網が必要であつて、原告のような素人ができるものではなく、何ら科学的根拠に基づかず、一般常識では理解し得ない易等で予想したとすれば、予想が外れた場合には観客は納得せず、場内に混乱を惹き起すことになる。

(三)  予想新聞を発行するには、資料の収集、試走状況の観察、印刷、販売等に多数の人員と多額の経費を必要とする。しかるに原告の納税状況(昭和五〇、五一年度において原告は所得が課税所得額に達していないことを理由として申告を拒否している。)からしても、予想新聞発行の点に疑問がある。

(四)  原告は協調性を欠く性格で、他の業者と衝突することなく円満に営業をすることができるかどうか疑問であつて、人格的にも予想新聞業者としては不適格であり、本件申請を許可すれば、場内の秩序を保てない。

(原告)

本案前の主張に対する反論

本件競艇場の施設は行政財産であり、従つて、本件不許可処分は行政処分である。

被告の主張に対する認否及び反論

一  被告主張事実のうち、原告が常滑競艇予想協会の推せんを受けていないこと及び本件競艇場内において、大名古屋新聞社と常滑情報社が予想新聞を販売していることは認めるが、その余の事実は否認する。

二(一)  被告主張の「常滑モーターボート競走場内予想台・新聞台等使用規則」は被告が原告の予想新聞販売の許可をしないために昭和五一年五月以降に制定、施行したものであつて、それ以前に本件申請をした原告の場合は、右規則の適用はない。

また右使用規則が、本件競艇場内において予想台等を使用するものは常滑競艇予想協会の推せんを要するとしている点は、同協会に予想新聞の販売等について独占権を与えるものであるし、申請者の適格性や能力についての審査基準が明示されていないことからしても、右使用規則は無効である。

(二)  予想新聞はその数が多い程観客にとつて好都合であり、同業者同志に自由に競争をさせればよいのであつて、本件競艇場内における予想新聞販売業者を大名古屋新聞社と常滑情報社に限定する合理的理由は全くなく、原告を不当に差別していることは明らかである。

(三)  現在大名古屋新聞社や常滑情報社が発行している程度の予想新聞は誰でも発行できるものであり、原告はそれ以上の予想新聞を発行し得る能力を有しており、資力の点でも何ら問題はない。

昭和五三年(行ウ)第九号事件につき、

(原告)

請求原因

一  原告は被告に対し、昭和五三年三月二五日付で、本件競艇場内における予想新聞販売のための予想台等普通財産借受申請をしたところ、被告は同月二九日付で原告に対し、右申請を許可しない旨の通知をした。

二  しかしながら、右不許可処分は、次の理由により無効である。すなわち、原告は昭和五三年一月以前から被告に対し、本件競艇場内における予想台等を一般競争入札により貸付けるよう申入れていたが、被告はこれを履行せず、前記借受申請についても、被告はその職権を濫用し、個人的反感に基づき原告を不当に差別して、右不許可処分をなしたものである。

よつて、原告は右不許可処分が無効であることの確認を求める。

(被告)

本案前の主張

普通財産の管理は私法上の行為に属し、被告が右財産に関し、原告に対してこれを貸与するか否かは契約の自由の原則の支配するところであつて、原告の借受申請に対して被告が承諾を与えなかつたからといつて、右は被告の行政処分とはいえず、抗告訴訟の対象とならないものである。

よつて、本件訴えは不適法である。

本案につき、

請求原因一の事実は認める。

同二は争う。

第三証拠<省略>

理由

第一昭和五二年(行ウ)第二五号事件につき、

一  請求原因一(但し、本件競艇場が行政財産であるとの点を除く。)及び二の事実は当事者間に争いがない。

二  そこで、まず本件競艇場が行政財産であるか普通財産であるかについて検討する。

行政財産は行政主体が直接に公用または公共用の目的に供し、または供するものと決定した財産であり、普通財産は行政財産以外の一切の財産であつて、直接行政上の目的に供されるものではなく、主として経済的価値の保全により、その管理処分から生じた収益を行政主体の財源に充て、間接的に行政目的に貢献せしめるため管理または処分されるものである。

ところで、モーターボート競走法によれば、都道府県及び自治大臣が指定する市町村は、財政の改善を図るため、モーターボート競走を施行することが認められており(同法一二条)、証人竹内鉱二の証言と同証言により成立の認められる乙第八号証、第九号証の一・二によれば、常滑市はその財政の改善を図るため、同法に基づきモーターボート競走を施行し、これに関する職務は競艇事業部に分掌せしめていること、同市はモーターボート競走施行の用に供するモーターボート競走場として、同市所有の常滑市字鯉江新開四七五番地雑種地三一、二七七平方メートル外四筆の土地と同地上の建物等の財産をもつて、本件競艇場を設置していることが認められる。

右事実によれば、本件競艇場を構成する前記土地、建物等の財産は、常滑市が財政の改善という行政目的を図るべく施行しているモーターボート競走事業のために供しているものであつて、直接公用に供されている財産、すなわち行政財産であると認めるのが相当である。

もつとも、前掲乙第八号証、第九号証の一・二によれば、常滑市の公有財産台帳上、右土地、建物は普通財産と表示されていることが認められるが、一方常滑市財務規則(成立に争いのない乙第七号証)によれば、行政財産は当該行政財産に係る事務または事業を所掌する課に所属させ、普通財産は総務部財政課に所属させることとされているところ(同規則一六二条二、三項)、前掲乙第八号証、第九号証の一・二及び証人竹内鉱二の証言によれば、右土地、建物は競艇事業部管理課の所属とされていることが認められる。

右によれば、常滑市自体右土地、建物が行政財産、普通財産のいずれに属するか明確に認識、把握しているとは必ずしも認め難いし、もともと行政財産・普通財産の区別は、管理者の主観的な取扱いにより決せられるべきものではなく、前記判示したところに従い、客観的に決せられるべきものであるから、常滑市の右取扱いが前記認定を妨げるものではない。

ところで、行政財産であつても、その用途または目的を妨げない限度において、その使用を許可することができるが(地方自治法二三八条の四第四項)、その目的外の使用はすべて行政上の許可処分によるのであつて、私法上の契約による使用権の設定は原則として認められていない(同法二三八条の四第一項)。

そうすれば、原告の本件申請に対してなされた被告の本件不許可は行政処分たる性質を有するものというべきである。

従つて、これを単に私法上の申込に対する不承諾にすぎず抗告訴訟の対象となり得る行政処分ではないとする被告の本案前の主張は理由がない。

三  そこで、本件不許可処分の適否について検討する。

行政財産について、その管理権に基づき、一般人には許されない特別の使用権を特定人のために設定すべきか否かの判断は、当該行政財産の実態、申請者の適否、使用権設定に伴う秩序維持・管理の難易等諸般の事情を考慮して決すべきであつて、許否の判断が恣意的で著しく不合理なものでない限り、管理者の自由裁量的判断によるものと解するのが相当である。

そこで、本件についてみるに、成立に争いのない甲第一号証の一ないし三、乙第五、六号証、本件競艇場の写真(昭和五二年一二月一一日撮影)であることに争いのない甲第四号証の四・五、第一四号証、証人竹内鉱二の証言と同証言により成立の認められる乙第一号証、弁論の全趣旨により成立の認められる乙第四号証、原告本人尋問の結果ならびに弁論の全趣旨を総合すると、常滑市が施行するモーターボート競走事業に協力し、会員相互の利益等を図ることを目的として、昭和四〇年一二月に、本件競艇場における予想業者等により常滑競艇予想協会が組織されていること、被告は昭和五〇年四月一日に内規として、「常滑モーターボート競走場内予想台・新聞台等使用規則」を制定・施行したが、右使用規則によれば、本件競艇場内において予想台・新聞台等を使用することができる者は、右予想協会の推せんを得た者で、被告が使用を許可した者としていること(なお右使用規則は被告が原告に予想新聞販売の許可をしないために制定したものではないし、許否の判断は被告に留保されているのであるから、予想新聞の販売等につき右予想協会に独占権を与えるものではなく、推せんについて、審査基準が明示されていないからといつて右規則が無効となるものではない。)、原告は本件申請に当り、右予想協会の推せんを得ていないこと(この点は当事者間に争いがない。)、予想新聞を販売する新聞台は現在本件競艇場の東門と西門近くの建物内に各二台が設置され、大名古屋新聞社と常滑情報社の二社が使用しているが、右建物の規模からしてそれ以上の新聞台を設置し得る余裕はないこと、本件競艇場の規模及び管理上他の場所に新聞台を設置したり、移動式新聞台を許可することは不可能であること、モーターボート競走施行上現在本件競艇場内で販売されている大名古屋新聞社と常滑情報社の二紙で特段の支障はないこと、予想新聞は選手に関する詳細な資料及びその資料に基づく合理的な勝敗予想を提供するものであつて、資料の収集、分析等にはある程度の訓練と情報網の確保が必要とされるが、原告にはその実績がなく、資料の収集、分析等に関する見通しについてもやや安易な面のみられること、予想新聞を発行するには、資料の収集、印刷等に経費を要するが、原告が昭和五〇、五一年度において課税所得額に達していないとして確定申告をしていないことからしても、右経費の調達に危惧される点があること、原告は本件申請に関連して、担当部課である競艇事業部管理課職員に執拗に面会を求めたり、深夜被告の私宅に電話をするなどやや異常な面がみられ、また、同業者(易業)との間でも紛争を起したりすることがあるなどやや非協調的な面があつて、本件競艇場内での予想新聞販売を許可すれば、他の業者との間で紛争を生じる懸念があることの各事実が認められ、他に右認定を左右すべき証拠はない。

右認定の事実によれば、被告が請求原因二掲記の不許可理由があると判断したことは充分肯認し得るところである。

原告は、被告がその職権を濫用し、原告に対する個人的反感に基づき恣意的に本件不許可処分をなした旨主張し、原告本人尋問の結果中には右主張に副う供述部分があるけれども、右供述部分は証人竹内鉱二の証言に照らして措信し難く、他に右主張事実を認むべき証拠はない。

以上のとおりであつて、原告の本件申請を不許可処分にした被告の判断には、裁量権の範囲を逸脱した著しく不合理な点があつたとはいえず、従つて、本件不許可処分には、重大かつ明白な瑕疵はもとより、違法も存しないものというべきである。

よつて、原告の本件主位的・予備的請求はいずれも理由がない。

第二昭和五三年(行ウ)第九号事件につき、

一  請求原因一の事実は当事者間に争いがない。

二  ところで、前記第一の一において判示したとおり、本件競艇場の施設は行政財産であるから、原告の本件申請は行政上の使用許可処分を求めるものであり、被告のした不許可は行政処分たる性質を有するものと解するのが相当である。

従つて、被告の本案前の主張は理由がない。

三  そこで、右不許可処分の適否について検討するに、前記第一の三において認定した事情を考慮すると(なお、被告が原告に対する個人的反感に基づき原告を不当に差別して右不許可処分をなしたことを認むべき証拠はない。)、本件申請を不許可処分にした被告の判断には著しく不合理な点があつたとはいえない。従つて、本件不許可処分には何ら無効事由は存しないものというべきであつて、原告の本件請求は理由がない。

第三結論

よつて、昭和五二年(行ウ)第二五号事件及び昭和五三年(行ウ)第九号事件につき、原告の請求をいずれも棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決した。

(裁判官 藤井俊彦 浜崎浩一 山川悦男)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例